
お正月に神社で耳にする、「ぷぉ~~~~ん」とゆったり響く音楽。
その正体は、雅楽の代表的な曲『越天楽(えてんらく)』であることが多いです。
一方、テレビやお正月番組などでよく流れる、
「てんてけてん」と軽やかな琴の音色の曲は『春の海』といいます。
似ているようで実はまったく違うこの2つの曲。
本記事では、「越天楽」と「春の海」の違いと、あの不思議な音色を生み出す楽器の正体について、分かりやすく解説します。
神社で流れる「雅楽」とは?お正月の代表曲『越天楽』

お正月に神社で流れている、あの厳かでゆったりと凜とした音楽の正体は、雅楽の代表的な曲「越天楽(えてんらく)」です。
一方で、テレビや街中でよく耳にする「てんてけてん」という琴の音色の曲は、雅楽ではなく『春の海』というお正月の定番曲です。
毎年、神社で年明けのお正月や、おめでたい結婚式など、人生の節目となる場面で耳にする「ぷぉ~~~ん…」と始まるあの音楽。
ゆったりとした流れの中に、自然と背筋が伸びるような厳かさを感じさせてくれるこの音楽は、日本の伝統音楽である「雅楽(ががく)」と呼ばれています。
雅楽は、5世紀頃から儀式用の音楽・舞踊として伝わってきた日本の伝統音楽です。
アジア大陸の音楽文化を取り入れながら、日本で独自に発展してきました。
ここからは、そんな雅楽がどのような音楽なのか、もう少し詳しく見ていきましょう。
お正月の2大定番曲『越天楽』と『春の海』の違いは?

お正月に耳にする音楽は、実は同じように聞こえても「神社で流れる音楽」と「テレビやBGMで流れる音楽」ではジャンルも成り立ちも異なります。
ここで、代表的な2曲の違いを整理してみましょう。
神社の定番「越天楽(えてんらく)」
神社で流れている「ぷぉ~~~ん」と始まり、笛の音が重なっていくあの曲は、雅楽の代表曲『越天楽(えてんらく)』です。
非常に古い曲で、お正月だけでなく結婚式などのお祝い事の席にも欠かせない存在。
雅楽の中でも、もっとも有名な曲のひとつといわれています。
テレビ・BGMの定番:春の海(はるのうみ)
一方、テレビ番組や街中でよく流れる「べんっ!テケテケテケテン!」という琴の音色の曲は、宮城道雄作曲の『春の海』です。
こちらは雅楽ではなく、箏と尺八で演奏される「箏曲(そうきょく)」というジャンルの音楽。
大正から昭和にかけて作られた比較的新しいお正月の定番曲になります。
雅楽が「世界最古のオーケストラ」といわれる理由
雅楽は、今からおよそ5世紀頃から、宮廷や神事などの儀式用の音楽・舞踊として伝えられてきました。
楽器や音楽のルーツは中国や朝鮮半島などアジア大陸にあり、それらを取り入れながら、日本独自の伝統音楽として発展してきたものです。
しかし、応仁の乱によって京都が戦場となった際、多くの資料が焼失し、楽人(演奏家)や楽譜も散逸してしまいました。
そのため現在では、歌詞が失われ、曲だけが残っているものが多いといわれています。
こうした長い歴史を持つ雅楽は、管楽器(吹物)・弦楽器(弾物)・打楽器(打物)の3つの楽器群で構成されており、西洋のオーケストラと同じ編成を持つことから、「世界最古のオーケストラ」とも呼ばれています。
このように、お正月に耳にする音楽には神社で流れる雅楽の代表曲「越天楽」と、テレビやBGMで親しまれている箏曲「春の海」という、似ているようで成り立ちも役割も異なる2つの定番曲があります。
- 「神聖で厳かな雰囲気」を感じさせるのが越天楽。
- 「新年の華やかさや晴れやかさ」を演出するのが春の海。
それぞれの違いを知ることで、お正月の音楽がより味わい深く感じられるでしょう。
お正月気分になる音楽といえば雅楽|あの音の正体はどの楽器?

雅楽の合奏(三管、弾物、打物)の様子。それぞれの楽器が天・地・空を表し、宇宙を表現しています。
お正月の神社で流れる雅楽の中でも、ひときわ印象に残るのが「ぷぉ~~~~ん」と空気が広がるような独特の音色です。
この音は、実は1つの楽器ではなく、複数の楽器が重なり合って生まれています。
ここでは、雅楽で使われる代表的な楽器を【吹く楽器・弾く楽器・打つ楽器】の3つに分けて、音の特徴と役割がイメージできるようにご紹介します。
正月に奏でられる代表的な楽器
雅楽では、複数の楽器が重なり合って独特の音色を生み出しています。
ここでは、お正月の神社で実際によく耳にする雅楽の代表的な楽器を種類ごとに見ていきましょう。
1.吹物
吹物(ふきもの)は、雅楽の旋律を担う中心的な楽器です。
あの「ぷぉ~ん」という印象的な音色の正体でもあります。

天から差し込む光を表す「笙(しょう)」。鳳凰が翼を休めた姿を模した神秘的な楽器です。
笙(しょう)
下の丸いところに口を添えて息を吹き込むので上の筒で顔はほとんど隠れてしまいます。
複数の竹管によって和音を出すことが出来ます。

地上の人々の声を表す「篳篥(ひちりき)」。力強く艶やかな主旋律を奏でます。
篳篥(ひちりき)
大きさは意外と両手でリコーダーのように持つと隠れてしまうほどコンパクトです。
しかし演奏すると力強く、プヮーンと滑らかな音色が印象的で、中国を思わせます。
西洋のオーボエと同じ、2枚のリードが音源なのも特徴です。

天と地の間を泳ぐ龍の鳴き声を表す「龍笛(りゅうてき)」。フルートのような横笛です。
龍笛(りゅうてき)
フルートのように演奏します。
音のイメージは「もののけ姫」ですね。
笙、篳篥、この龍笛で雅楽の三管といいます。
この3つの楽器が、神社で耳にする「ぷぉ~ん」という音の正体なのです。
2. 弾物

日本の琵琶の中で最も大きく、優雅な音色を持つ「楽琵琶(がくびわ)」。
楽琵琶(がくびわ)
日本の琵琶の中ではもっとも大きいです。

(上)日本古来の伝統的な「和琴(わごん)」。雅楽の中でも特別な役割を持つ弦楽器です。(下)現代の「こと」のルーツである「箏(そう)」。柱(じ)を動かして音程を調節します。
和琴(わごん)
箏(そう/こと)
和琴(上)
「和琴」は「わごん」と読みます。
「わこと」と読みたくなりますが、実は違うのですね。
とても古い時代からある楽器でバイオリンと同じように弦を押さえて演奏します。
箏(下)
現代でいう「こと」ですね。
「琴」ではなく「箏」と書きます。
箏は柱(じ)と呼ばれる可動式の支柱で弦の音程を調節します。
3.打物

雅楽の指揮者役を務める「鞨鼓(かっこ)」。全体のテンポを司る重要な楽器です。
鞨鼓(かっこ)
演奏の速度を決めたり、終わりの合図をしたりする役目を担っているため、打楽器の中でも第一位に位置付けられています。
この楽器は楽長などの経験豊富なベテラン奏者が担当します。

豪華な装飾が目を引く「楽太鼓(がくだいこ)」。独特の文様が描かれています。
楽太鼓(がくだいこ)
独特の文様を持つ太鼓です。

2メートルに及ぶ大型の「火焔太鼓(かえんだいこ)」。燃え盛る炎のような装飾が特徴です。
火焔太鼓(かえんだいこ)
太鼓の面が2メートル程もある大型の楽太鼓です。
まるでだまし絵のような不思議な模様でとても華やかな楽器ですね。
炎のような装飾から、どこか異国的な雰囲気を感じさせる楽器です。
正月に「越天楽」が流れる理由
お正月に神社へ参拝すると、どこからともなく聞こえてくるゆったりとした雅楽の音色。
その中でも、特によく演奏されているのが「越天楽(えてんらく)」です。
では、なぜお正月に越天楽が選ばれるのでしょうか。
越天楽が正月にふさわしいとされる理由
越天楽は、雅楽の中でも特に格式が高く、古くから祝儀や儀式の場で演奏されてきた楽曲です。
お正月は、新しい一年の始まりを神さまに報告し、家内安全や五穀豊穣を祈る大切な節目。
そのため、場を清め、神さまをお迎えする意味を持つ越天楽の音色が、お正月の神社にふさわしいと考えられてきました。
「ぷぉ~ん」という音が心を落ち着かせる理由
越天楽では、笙・篳篥・龍笛といった「雅楽の三管」が重なり合い、独特の広がりのある音を生み出します。
このゆったりとしたリズムと響きは、聞く人の心を自然と静め、神聖な空間を作り出します。
年の始まりに気持ちを整え、清らかな心で一年をスタートさせるためにも、越天楽はとても相性の良い音楽なのです。
お正月の神社で耳を澄ませてみてください
次にお正月の神社を訪れたときは、ぜひ境内に流れる音に少し耳を澄ませてみてください。
「ぷぉ~ん」と聞こえてくるその音こそが、何百年も前から受け継がれてきた越天楽の響き。
そう思うと、いつもの初詣が少し特別な時間に感じられるかもしれませんね。
まとめ
お正月に神社で耳にする、あのゆったりとした音楽の正体は、雅楽の代表曲「越天楽(えてんらく)」です。
一方、テレビや街中でよく流れる「べんっ!テケテケテケテン!」という曲は、宮城道雄作曲の箏曲「春の海」で、雅楽とは別の音楽ジャンルになります。
雅楽は、はるか昔にさまざまな国から楽器や音楽が伝わり、日本で独自に受け継がれてきた世界最古のオーケストラとも言われています。
儀式用の音楽でありながら、ゆったりとした中に華やかさと気品を感じさせるのも魅力ですよね。
近年では篳篥や龍笛の奏者が少なくなっているそうですが、お正月の神社で流れる越天楽や、誰もが知る「春の海」は、これからも大切に受け継がれていってほしい伝統音楽です。
次に初詣に出かけたときは、ぜひ境内に流れる音楽にも耳を澄ませてみてください。


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